彼女の背後でシチューの鍋が煮え立つ音が耳に届き、ようやく唇を離すと崩れ落ちそうになる彼女の腰を抱き寄せ。
脱力してしまった彼女を抱きしめながら、側にあった醤油を手に取り鍋に少量入れる。

「隠し味に醤油を入れるといいと思います。」

「・・・」

「これでが考えてる味になっていると思いますよ。」

お玉でかき混ぜてから一度味見をし、思ったとおりの味になったのを確認すると鍋の火を止める。
すると腕の中のが、何か言いたげにネクタイを引っ張っていた。

「おや?どうしました?そんな真っ赤な顔をして・・・」

「鍋の・・・
火・・・

「食べる前に温めれば大丈夫ですよ。」

にっこり微笑みながらのエプロンの結び目に手を伸ばす。

「食事よりも、先に欲しい物が出来てしまったので・・・そちらを先に頂けますか?」

「・・・は?」

「『今日』を楽しい物にして下さるんですよね?」

がカードに書いていた言葉をそのまま引用すると、何か言おうと開きかけていた口がそのままの形で止まった。

「あ、あの・・・」

「貴女と過す時全てが、私の幸福です。ですから・・・」



――― 一番近くで、カンジさせて下さい



そう、耳元へ囁きながら抱き上げれば・・・素直に両手が首に回された。





素敵な誕生『日』をありがとうございます。
願わくばこの先も、ずっと貴女の側に・・・




















バスローブに身を包み、遅くなった食事を取りながら今日について彼女は語った。

「本当は豪華なレストラン予約しようと思ったの。でもね、あたしいい店って知らないし、知ってたとしても直江さんに連れてって貰った場所なの。」

がいれば、どこでも最高級のレストランになりますよ。」

「それじゃダメ!味も、雰囲気も最高の場所がいいって思ったの!」

拳を握り締めて力説する姿からは先程までの艶やかな姿は想像がつかない。
そんな違いもらしい、と思いながら良く冷えたワインを飲む。

「でもいい場所って、その・・・お値段が高いでしょう?そうすると直江さんが支払っちゃいそうな気がして・・・それなら家で食事すれば、いいお肉を使った料理もいいワインも用意出来るかなって思ったんだけど・・・」

そこまでの勢いは何処へ行ったのか、急に暗い顔をしてしまったの様子に気づき手を止める。

「・・・これじゃぁ普段の食事と変らないよね。」

苦笑しながらが指差すのはテーブルに並べられた食事。

「本当は前菜とかもちゃんと作ろうと思ったんだけど、予想外にシチューに時間かかっちゃって・・・おかげで直江さんが来てから用意しようと思ったサラダも出来なくて・・・」

今にも泣き出しそうな顔をするの頬に、そっと手を伸ばし優しく微笑む。

「・・・普段の食事とは全く違いますよ。」

「え?」

「普段からの作る食事はとても手が込んでいて美味しいですが、今日のシチューは今までの中で一番美味しいですよ。良く煮込まれている牛肉はスプーンに乗せる前に崩れるほど柔らかく煮込まれています。こんなに美味しいシチューを出す店には早々お目にかかれませんよ。それに・・・」

「・・・それに?」

「前菜として、どの店でも味わえない素敵な物を頂きましたから。」

「前菜・・・・・・!!!

それが何に当たるのか思い当たったの顔が真っ赤に染まり、無意識に自らの体を抱きしめた。いくら私でも貴女が心を込めて作ってくれた食事を取りながら、同時にに手を伸ばす事はしません。



――― 今日は、ね



「他に貴女から心のこもったカードや花束・・・僅かな時間の間にどれだけの『幸福』をから頂いたか私には数え切れませんでしたよ。」

「・・・よ、喜んで貰えた?」

「勿論です。」

笑みを浮かべそう答えれば・・・大輪の薔薇がほころぶ様な笑みを浮かべ、が微笑んだ。
それを見て思わず、ついさっき食事と同時にに手を伸ばさないと誓った自分を悔やんだのは言うまでも無い。

「えへへ〜・・・そっか、喜んで貰えたなら順番逆でもいいや♪」

「・・・美味しいですよ、シチュー。」

順番が逆 ――― と言う彼女の言葉をあえて聞かなかったフリをしてワインを一気に飲み干す。





まさか、食事をして終わり・・・なんて思ってはいないですよね?
まだ私は、貴女の口から大切なあの一言を聞いていませんよ。



――― 愛している の一言を、ね・・・





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★ Happy Birthday ★

橘義明(直江信綱)

直江さんお誕生日おめでとうございますw
ちなみにこのお話は『白』直江さん生誕を祝っております(笑)
え?どの辺が白いのかって!?
・・・口調が丁寧な所って言うか、寧ろ口調が『私』になってる所?

実は〜お誕生日話を書くつもりは、ほんの僅かしかなかったんですよ(苦笑)
いや、話上手くかけてなかったし、某イイ人の誕生日が過ぎてた事にショックを受けてしまったのですっかり書く気を無くしちゃってたんです。
でもふと思いついたら・・・これがまたよく動いてくれてねぇ(==)
で、書き終わってから気づいたのがこの展開で行くならこの人の口調は『俺』になるだろう!と。
と言うわけで、何故か白黒2種類のお誕生日話がこうして出来上がったのでした★